アイステッズヴォド②
~ゴルセッズ・セレモニー~
ナショナル・アイステッズヴォドの
メインイベントは、ゴルセッズ・セレモニー。
パビリオンとよばれる大テントで行われる、
文芸コンテストの表彰式典です。
(Gorsedd y Beirdd = Gorsedd of Bards)というグループ。
“高位吟唱詩人”という意味で、
詩人や作家、音楽家、芸術家、 そして各分野で
ウェールズに貢献した人々で構成されています。
分野ごとに異なる緑・青・白の長衣をまとっていて、白が別格。
映画スターやラグビーの花形選手の姿を、
緑や青の衣の人々のなかに見かけることもあるんですよ。
白衣はアイステズヴォッドやゴルセッズと
特別な関係にある人たちのみに限られています。
過去の優勝者たちもこのランクで、
彼らはプリヴァルズ(Prifardd =首席吟唱詩人)といい、
月桂樹の葉の頭飾りをかぶっています。
そしてこの一団を率いるのが、 金の長衣の
アークドルイド(Archdderwydd =Archdruid)です。
もともとドルイドとは古代のケルト僧のことですから、
大祭司とでもいいましょうか。
プリヴァルズのなかから3年の任期で選ばれ、
表彰式典のすべてを司ります。
さて、そのゴルセッズ・セレモニーは3つ。
自由律詩と散文と韻律詩のコンテストの表彰です。
あ、でもその前に言っておきたいのですが、
このコンテストの応募方法は面白いんですよ。
というのも、応募者は本名ではなくウェールズ語の吟唱詩人名、
つまりペンネームで作品を提出しなければならないのです。
だから、ネームバリューも経歴も学識も、審査の際には考慮されません。
純粋に作品の質のみで評価されます。厳正かつ公平ですよね。
話をセレモニーに戻しましょう。最初の式典は月曜日に行われる
コロニル・バルズ(Coroni’r Bardd =the Crowning of the Bard)。
押韻の規則にとらわれない自由律詩のコンテスト結果の発表と表彰で、
優勝者には冠が授けられます。
水曜日は、ア・ヴェダル・ラディアイス
(Y Fedal Ryddiaith =The Awarding of the Prose Medal)。
散文のコンテスト結果発表で、賞品はメダルです。
そして最後となる金曜日の式典が、
カデイリオール・バルズ(Cadeirio’r Bardd =The Chairing of the Bard)。
カンハネッズという形式の、厳しい押韻規則にのっとってつくらなければいけない頌歌の
最優秀作品を讃える式典で、優勝者には木製の椅子が授与されます。
これら3つの表彰に共通して行われる儀式は、ケルトの香りに満ち満ちています。
それもそのはず、実は……。おっと、これはまた別の機会にお話ししますね。
ともかく、セレモニーの様子を式次第で紹介すると――
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まず、コルン・グラァド(Corn Gwlad = Country Horn)という
ラッパが、東西南北に向けて高らかに吹き鳴らされます。
これは、すべての民への「この地に集え」という呼びかけ。
そうして集結した会衆とともにゴルセッドの詠唱が歌われます。
次に審査委員長が審査経過と作品の講評を行います。
そして大祭司が優勝者を吟唱詩人名で発表し、
再びコルン・グラァドが鳴り響きます。
すると会衆のなかから優勝者が立ちあがり、
スポットライトが探し当てます。
このときまでだれも、大祭司でさえ、優勝者がどんな人かはわかりません。
ゴルセッズ・ア・ベイルズの一行が迎えに赴き、最高詩人の証である
紫のベルベッドの長衣をまとわせて、大祭司のもとへと先導します。
ここではじめて、優勝者の本名と出身地が明かされます。
さぁ、ここからがいよいよクライマックス。
優勝者の背後に4人がかりでやっと持てるほどの長剣、“平和の剣”が高く掲げられます。
そして、その柄に大祭司が手をかけ、刀身を鞘から抜こうとします。
しかし同時に、彼は大声でこうも尋ねるのです。
「平和であるか? (ア・オイス・ヘデュックA oes heddwch ? )と。
会衆も大声で応えます。「平和である!(ヘデュックHeddwch! )」と。
すると、剣は音を立てて鞘に戻されます。
もしも審査結果に不服などがあり、応募者たちの心が穏やかでなければ、
つまり、その場が平和でなければ、儀式を続けることはできません。
なぜなら、ゴルセッズは平和のうちに集うと定められているからです。
この問いかけと応答は3回繰り返され、それぞれに違うフレーズが前半についています。
英語訳とともに、ウェールズ人が教えてくれた意訳をご紹介すると――
Y gwir yn erbyn y byd, A oes heddwch?
(The Truth against the World, Is there Peace?)
真実はあらゆる困難に打ち勝つ。平和であるか?
---Heddwch! 平和である!
Calon wrth Galon, A oes heddwch?
(Heart to Heart, Is there Peace?)
心をひとつにして答えよ。平和であるか?
---Heddwch! 平和である!
Gwaedd uwch adwaedd, A oes heddwch?
(Shout above responding Shout, Is there Peace?)'
声を限りに叫べ。平和であるか?
---Heddwch! 平和である!
こうしてはじめて、勝者は栄誉の椅子に腰掛けることを許されます。
その後は、お祝い行事が続きます。
まずは、優勝者を讃える歌。
それから、花冠をかぶり、花束を手にした少女たちのフラワー・ダンス。
その後、“豊穣の角杯”という意味のホルン・ヒルラスを
掲げた女性が、進み出てきます。
その年の開催地に住む既婚女性のなかから選ばれた
マム・ア・ヴロ(Mam y Fro = Mother of the area)です。
開催地の人々を代表して歓迎の辞を述べ、
角杯に満たされた美酒を勝者に捧げます。
次に、今度は未婚の女性がブロデイゲド(Blodeuged)という
花束を勝者に捧げます。
彼女はウェールズの乙女の代表であり、
ブロデイゲドはウェールズの肥沃な大地の象徴で、
牧場の花や野草でつくられています。
一連の祝賀が終わると、フィナーレ。
もちろん、ウェールズ国歌で締めくくられます。
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と、長々と文章で説明しましたが、百聞は一見にしかず。
最近はありがたいことに、
式典の様子を動画で見ることができます。
こちら↓をどうぞ。式典自体は19分30秒あたりからです。
少し古くて画質も荒いですが、英語の字幕がついた動画もあります。
現在のアイステッズヴォドは文芸や音楽のコンテストにとどまらず、
アートギャラリーからスポーツ、コンサート、ショッピング、グルメまで、
だれもが愉快に過ごせる野外イベントです。
でもせっかく行くなら、やはり、このゴルセッズ・セレモニーは体験したいもの。
月・水・金の夕方は、パビリオンで「ヘデュック!」の応答に声を合わせてくださいね。
チケットはインターネットで事前購入もできます。
あ、それから、ゴルセッズ・セレモニーだけなら、もうひとつチャンスがあります。
アイステッズヴォドが行われるフィールドでは、遅くとも1年と1日前までにゴルセッズが集い、
翌年の開催を宣言する儀式が執り行われるのです。
セレモニーは結界として築かれ、清められた
ストーンサークルの中で行われます。
カーディフに行かれたことがある方なら、
お城の隣のビュート・パークにある
ストーンサークルを覚えていらっしゃいませんか?
これは、かつてこの公園でアイステッズヴォドが
開催されたことを物語っています。
残念ながら、古代の遺跡ではありません。
でも、まだ残っているだけマシなのかも。
だって最近はこのストーンサークルも、
軽い合成樹脂製に変わったんですよ。
毎年異なる開催地にストーンサークルをつくるのは
不経済だからって。
いまでは儀式の前に運びこんでセットアップし、
終わったら撤収しています。
リサイクルの観点からはよいことですが、う~ん、
伝統行事の側面から見ると、ちょっとねぇ……。
<もっとトリヴィア>
ゴルセッズ・セレモニーが行われる詩のコンテストでは、
賞に値する応募作品がなかったと判断されることもあります。
つまり、その年の優勝者はナシということ。
厳しいですが、こうやって詩作の質を保つことも必要なんでしょうね。
2009年のアイステッズヴォドでは、その基準に従い、授賞が見送られました。
そのときの様子は、こちらでどうぞ(ビデオの後半です)。