ウェールズって?
~英国のなかの異国~
「ウェールズ」と聞いてすぐに頭に浮かぶのは、
英国皇太子を意味する“プリンス・オブ・ウェールズ”でしょうか。
でも「ほかには?」と聞かれて、さぁ、なにが出てきますか?
……なかなか思いつきませんよね。
そう、ウェールズってほとんど知られていないんです。
だからここでは、“基本のキ”をお話しします。
まずは、地理から。
ご存知のように英国は、正式名称を
The United Kingdom of Great Britain and
Northern Ireland (グレートブリテンおよび
北アイルランド連合王国)といい、
グレートブリテン島にあるイングランドと
スコットランドとウェールズ、
そして北アイルランドという、
4つの国で構成されています。
ウェールズはイングランドの西隣、海を隔てて
アイルランド共和国に面しています。
ところで、あえて「国」としたことに気づきました?
実は現地の人々にとっては、
それぞれは「国」という意識なのです。
わたしたち日本人はつい、東北や関東、
関西などと同じように地方と捉えがちですが、
それは大きな誤解のもと。
彼らの心情としては、日本と韓国と中国が
無理やりいっしょにさせられたようなもの。
“イギリス”という国は、決して存在しないんですよ。
少なくとも、ウェールズ人とスコットランド人にとってはね。
さて、その「国土」は20,720㎡で、東京都と四国をあわせたくらい。
人口は2010年の統計で300万人。茨城県より少し多いくらいです。
ちなみに、同期の英国全体の人口は6,226万人、イングランドは5,223万人、
スコットランドは522万人ですから、いかにウェールズの人口が少ないかが、
おわかりいただけるでしょう。
しかもその多くが、工業地帯として拓けた南東部と北東部に集中しています。
地形的には、ウェールズは“山の国”。
北のスノードニアから南のブレコンビーコンまで
山脈が走り、その合間に湖がきらめき、森が茂り、
丘がなだらかな稜線を描きます。
国土のほぼ1/4が国立公園か特別自然美観地域に
指定されていて、どこに出かけても
すばらしい景観を楽しめます。
また、ウェールズはヨーロッパで単位面積あたりの
城の数がいちばん多い地域です。
これは侵略者との戦いに明け暮れた
歴史の名残ともいえるのですが、
北ウェールズに残る壮大な城郭の数々は、
現在では重要な観光スポット。
実際、英国政府観光庁が2010年に世界20カ国で
行った「英国でしたいこと」アンケートの第1位は、
『ウェールズの古城めぐり』でした。
ウェールズ人のルーツは、ノルマン人やサクソン人が侵略してくる前から
ブリテン島に住んでいたケルト系のブリトン人で、
ウェールズの文化には、彼らの伝説や風習がいまも色濃く残っています。
キリスト教が伝えられるずっと前から
ドルイドという祭司を中心とするアニミズム的な宗教があり、
彼らは大地の精霊や自然物のなかに霊魂が宿ると信じていました。
またとてもロマンチックな民族で幻想的な物語を好み、伝説や民話には
魔法や夢、妖精、騎士、ドラゴン、吟唱詩人などが数多く登場します。
ケルトの族長であったアーサー王にまつわる場所も国内に多く残っています。
ヨーロッパ最古の言語のひとつである
ウェールズ語は、この先祖たちから受け継いだ
ケルト語の一種です。
見ればおわかりのように、
英語とは単語も文法もまったく異なります。
ただ残念なことに、ウェールズ語が話せる
ウェールズ人は全体の約21%。
それでも、一度は絶滅の危機に瀕したものを、
国を挙げての保護&復興運動で、
この数値にまで回復させたものなのです。
現在では公用語として多くの文書や標識で
英語との2ヶ国語表記が義務づけられていて
英語で教育する学校でもウェールズ語は必修科目となっています。
ウェールズのことをよく“英国のなかの異国”といいますが、
もっとも異国たらしめているのが、この独自の言語でしょう。
そもそも「ウェールズ」とは、サクソン人の言葉「ウェリース」がもとで、意味は「よそ者」。
つまり、先祖伝来の土地に住みながら侵略者に追われ、
その侵略者たちが多勢になってしまって、よそ者扱いされてるんです。ウェールズって。
ウェールズ語ではウェールズのことは「カムリ」といい、その意味は「同胞・仲間」です。
そう名づけるところに、彼らの愛国心が見えるようではありませんか?
さぁ、それでは、“仲間たち”のところへまいりましょう。