ギラルドゥス・カンブレンシス Giraldus Cambrensis
~中世のウェールズ解説者~
「ウェールズ人ってどんな人たち?」と聞かれたら、
“おおらかで、温かくて、陽気で、もてなし上手で、
歌が得意で、お酒が好きで、ちょっとエッチ!(笑)”
というのが、一般的な国民性でしょうか。
もちろん人それぞれですから、
内向的で下戸のウェールズ人もいるはずですが、
全体的には、明るく楽しい人が多いと思います。
そんなウェールズ人の性格、どうやら800年以上も
変わっていないようですよ。
それがわかるのは、12世紀に書かれた
『ウェールズ案内』(Descriptio Cambriae)。
著者は、聖職者であり地誌学者でもあった
ギラルドゥス・カンブレンシス(Giraldus Cambrensis)です。
ギラルドゥスは、1146年ごろ南ウェールズのマノビア城で
ノルマン人貴族の父とウェールズ王族の
母の間に生まれました。
幼いころから聖職を志し、
10年以上もパリ大学で研鑽を積むなど、
当時としては最高の教育を受けたエリート司祭です。
ウェールズの事情に通じていたため、
第3回十字軍遠征のために兵士を募集する
カンタベリー大司教のウェールズ巡回旅行に同行し、
この体験を踏まえて2冊の本を書きあげました。
そのうちの1冊が、『ウェールズ案内』です。
ウェールズ人やウェールズの文化について
“外国人”に理解してもらう目的で書かれた
『ウェールズ案内』は2巻構成なのですが、
意図してそうしたのかどうか、
ギラルドゥスは上巻でウェールズ人の長所を、
下巻では短所を並べています。
さぁ、それでは行きますよ。
まず、ウェールズ人のいいところ;
・勇敢さ ・大胆さ ・客人の歓待 ・すぐれた学習能力
・楽器演奏や弁舌や詩作の才能 ・合唱の才能
・言葉遊びの才能 ・篤い信仰心 などなど。
なるほど。いまもウェールズ人の代名詞のように
言われるホスピタリティや芸術的才能は、
この時代すでに顕著だったのですね。
次、ウェールズ人の困ったところ。
これがまた、強烈です。曰く;
・約束を平気で破る ・盗みや略奪が頻繁
・貪欲なまでの地所への執着
・訪問先での食事の要求 ・暴飲暴食
・近親相姦 ・同性愛 などなどなど。
う~ん(苦笑)、最後のふたつは、聖職者のギラルドゥスには
とくに噴飯モノだったのかもしれませんね。
あ、でも、これは12世紀のウェールズ人たちのことですよ!
くれぐれもその点はお忘れなく!!
とはいえ、こうして羅列された長所と短所を
見てみると、“ものごとに頓着せず、
この世のあらゆる楽しみを享受し、
ついハメをはずしちゃう”、ウェールズ人の姿が
浮かびあがってくるようではありませんか?
「昔もいまも変わらないんだな」というのが、
実体験にもとづくわたしの感想です(笑)。
『ウェールズ案内』に話を戻すと、
下巻末の内容はとても興味深いものです。
この本はイングランド人に向けて
書かれたものなのですが、
ラスト3章の最初のタイトルは、
“どうすればウェールズ人を征服できるか”。
そして次の章のタイトルは
“征服後のウェールズ人はどのように統治されるべきか”。
ところが最終章は手のひらを返したように
“どうすればウェールズ人はイングランド人に逆襲し、
抵抗を続けられるか” なのです。
ウェールズ王家の血を引く身でありながらイングランドの朝廷に仕え、
教会のなかでも立身出世をめざしたギラルドゥスの複雑な心境が、
この矛盾した内容に現れているようです。
切望したセント・デイヴィッズ司教になることがかなわず、
失意のうちに77年の生涯を閉じたギラルドゥスですが、
彼が著した書物の数々は現在、
12世紀当時の様子を知ることができる第一級の資料です。
だから、ウェールズ人が選ぶヒーロー100人のうちのひとりに
彼も選ばれているんでしょうね。
<もっとトリヴィア>
名文家だったギラルドゥスの言葉は、いまもさまざまな場面で引用されます。
わたしのお気に入りは、
“悪いウェールズ人よりひどい奴に出くわすことはないかもしれないが、
善いウェールズ人よりすばらしい人間に出会うことは絶対にありえない”
(You may never find anyone worse than a bad Welshman, but
You will certainly never find anyone better than a good one)
きっとウェールズ人のほとんどが、首を縦に振りますよ。