ウェルシュゴールド
往年の名画『わが谷は緑なりき』でも
知られているように、ウェールズ、
とくに南ウェールズは、良質の石炭の産地でした。
でもその話はまたの機会に譲ることとして、
今回はウェールズの山懐に眠っていた
もうひとつのお宝についてお話ししましょう。
それは、金。ウェルシュゴールドです。
「ウェールズで金がとれるの?」という声が
聞こえてきそう。はい、そうなんです。
ウェールズの金鉱の歴史は古く、
ケルトの族長や神官たちは身分や権力の象徴として、
金であつらえた腕輪や首飾りを身につけていたといわれています。
5世紀までブリテン島に進駐していた古代ローマ軍も、かなり大規模な採掘を行っていたそうです。
ウェールズ版のゴールドラッシュとなったのは、19世紀末。
金鉱近くの町は、一攫千金を夢見て各地からやってきた男たちで賑わいました。
ただ残念なことに埋蔵量が少なく、採掘を続けても採算が合わなくなってしまったために、
最後まで残っていた金鉱も20世紀末には閉じられてしまいました。
いま備蓄されている金塊も、数年のうちに使い果たされてしまうとか。
だからウェルシュゴールドはプラチナよりも希少価値が高く、
価格も南アフリカ産の金の3倍以上という高値なんですよ。
この“世界でもっとも貴重な金属”の価値を
さらに高めているのが、英国王室との絆でしょう。
プリンス・オブ・ウェールズの叙任の際に
その冠に使用されただけでなく、王室の婚礼では、
ウェルシュゴールド100%の結婚指輪が
花嫁に贈られるのです。
エリザベス女王のお母さまからはじまった習慣で、
女王さまはもちろん、娘のアン王女も、
ダイアナ妃もカミラ王妃も、キャサリン妃も
メーガン妃も、ウェルシュゴールドの指輪を
左手の薬指にはめておられます。
この伝統が今後も続きますようにと、エリザベス女王は60歳の誕生日のお祝いに
ウェールズの金鉱のひとつから1キロの純金の延べ棒をプレゼントされました。
市場では手に入らなくなったとしても、これだけあれば数世代はもちそうですね。
採掘されたばかりのウェルシュゴールドは、やや赤みをおびた色あいが特徴。
そして、宝飾店でも見かけることはめったにありませんが、
ウェルシュゴールド100%の製品には、ウェールズの乙女をかたどった彫りこみと、
Aur Cymru(ウェールズ語で「ウェルシュゴールド」の意味)の刻印が施されています。
たぶん目の玉が飛び出るようなお値段でしょうが、価値が上がること、間違いなし!
子から孫へと代々受け継いでいく家宝になりますよ、きっと。