アイステッズヴォド①
~ルーツは中世の吟唱詩人大会~
ウェールズを語るなら、アイステッズヴォド
(Eisteddfod)をはずすわけにはいきません。
ヨーロッパ最大の文学と芸術の祭典でありながら、
ウェールズでだけ行われるフェスティバルです。
村単位で行われる一日だけのものから、
全国から参加者が集まって1週間かけて
開催されるものまで、大小さまざまな
アイステッズヴォドがありますが、
主要な大会は3つ。
中世からの伝統をルーツに持つナショナル・アイステッズヴォド・オブ・ウェールズと、
第2次大戦後にはじまったインターナショナル・アイステッズヴォド・オブ・スランゴスレン、
そして参加者を青少年に限ったイルズ・アイステッズヴォドです。
あえて「インターナショナル」や「イルズ」とつけくわえない限り、一般的には
アイステッズヴォドといえばナショナル・アイステッズヴォドのことを指します。
この(ナショナル)アイステッズヴォド、
そもそもは“吟唱詩人大会”とでも言うべきもので、
現在では詩歌のコンテストが中心です。
名前の由来は、ウェールズ語で「座る」という意味の
「アイステッズeistedd」。
使用言語はもちろんウェールズ語で、毎年8月の第1週に、
開催地を北部と南部で隔年に交代しながら、
すべて野外で行われます。
『ウェールズって?』の項でもお話ししたように、
ウェールズ人のルーツはケルト系のブリトン人。
とてもロマンチックな民族で、詩歌の才に恵まれ、
いにしえの時代から吟唱詩人が活躍していました。
戦いを詠い、英雄を讃え、勝利の歓呼や敗北の悲哀を
詩に託して、民族の歴史を吟じてきたのです。
それがやがて中世になると、
吟唱詩人のランクを定めるために、
おたがいの技を競いあうコンテストが
行われるようになりました。
これがアイステッズヴォドの原型です。
記録に残る最古のアイステッズヴォドは、1176年にカーディガン城で催されたもの。
城主のロード・リースが英国全土から吟唱詩人と楽人を招き、
詩歌の部と楽器演奏の部で競技会を開いたのです。
もっとも見事だった勝者に授けられたのは、椅子。
城主の食卓に同席する栄誉でした。
ね、“座る”でしょう?
このような来歴から、現在でもアイステッズヴォドでは
もっとも創作が難しい韻律詩部門での優勝者に、
賞品として木製の椅子が贈られます。
その年の最高詩人のために特別に制作された椅子で、
年号と開催地が彫りこまれます。
持って帰って食卓の椅子にしてもいいけれど……。
いえいえ、これはやっぱり、
一族の誉れとして飾るべきものでしょうね。