ダフォディルとリーク
~ウェールズの国花~
自国のシンボルとしてウェールズ人が
愛してやまない、ダフォディル (daffodil)。
英国に春の訪れを告げる、黄色のラッパ水仙です。
イングランドはバラ、スコットランドはアザミ、
そしてアイルランドはクローバーと、
英国にはそれぞれの国を象徴する植物があり、
それぞれに来歴があります。
でも実は、ダフォディルに故事や由来はありません。
というのもウェールズにはシンボルがもうひとつあり、
もともとはそちらのほうが由緒正しいからなのです。
それは、リーク (leek)。
辞書には[西洋ネギ]とありますが、太く白い長ネギで、
見た目にいちばん近いのは下仁田ネギでしょうか。
一説には、6世紀後半、一面のネギ畑でサクソン人と戦っていたとき、
後にウェールズの守護聖人となる聖デイヴィッド(St David)が
敵味方を区別するためにかぶとにリークをつけろとウェールズ兵たちに命じ、
そのおかげで大勝利を収めたのがはじまり、といわれています。
この話が本当はどうかはさておき、すでにシェイクスピアの時代には
“リーク=ウェールズ”という図式は英国中に広まっていたようで、
戯曲『ヘンリー5世』のなかにも、ウェールズの日とでもいうべき
守護聖人の祝日であるSt David's Day(3月1日)に、
帽子にリークを飾るウェールズ人将校が登場します。
でも、ネギを胸に飾っても、もうひとつ見栄えがしませんよね。
臭いも気になるし。そこで登場したのが、リークと同じく
ウェールズ語で「ケニン」というダフォディルなのです。
明るい黄色の大輪の花は、愛国心を華やかに表すのにもってこい。
かくして19世紀には、とくに女性の間で
ダフォディルが好まれるようになりました。
さらに20世紀にその人気を不動のものとしたのが、
英国首相にまでなったウェールズ生まれの政治家、
デイヴィッド・ロイド・ジョージです。
彼は3月1日に率先してダフォディルを胸に飾り、
また、後年エドワード8世国王となるプリンス・オブ・ウェールズの叙任式を、
イングランド王室の嫡男がこの称号を名乗るようになった因縁の地である
北ウェールズのカナーヴォン城で執り行うことを思い立ち、
その式典会場をダフォディルで飾りました。
たちまち、この花はステータスを獲得したというわけです。
「どうせならキレイなほうがいいし、
同じ言葉だからかまわないでしょ」と
由来のない花をもうひとつのシンボルに
してしまうところに、ウェールズ人の
おおらかさが感じられませんか?
そんな“ゆるい”ところも、
ウェールズの魅力のひとつです。