ウェールズ人の名前
マクドナルド(MacDonald)ならスコットランド系、
オブライエン(O’Brien)ならアイルランド系というように、
英国人の名前には、ほぼどの国の出身かがわかる姓があります。
ウェールズ人に多いのは、ジョーンズ(Jones)、
デーヴィス(Davies)、ウィリアムス(Williams)、
ロバーツ(Roberts)、フィリップス(Phillips)、
ヒューズ(Hughes)、エヴァンス(Evans)、
トーマス(Thomas)……ん? なにか気づきません?
そう、英語の一般的な男の子の名前に
Sをつけた姓が圧倒的に多いのです。
これは、イングランドに併合されたのち、
名前までイングランド化したことの表れなんですよ。
かつてウェールズでは、
[自身の名+“~の息子”という意味の<ap>または<ab>+父の名]
という名乗り方をしていました。
たとえばプリンス・オブ・ウェールズを名乗っていた
北ウェールズの覇者、ラウェリン・アプ・グリフィズは
“グリフィズの息子、ラウェリン”という意味です。
ラウェリンだけでは「若造が!」と思われかねないから、
「お父ちゃんはあのグリフィズなんだぞ~!」とつけくわえていたのかな?(笑)
冗談はさておき、父系の血族が大切な社会だったのですね。
祖父や曽祖父の名までさかのぼることもあったようです。
でもこの名乗り方では、世代ごとに姓が変わってしまいます。
そこで15世紀から18世紀にかけて、
ウェールズでも固定化した姓が使われるようになりました。
といっても新しくつくるのではなく、どこかの世代での父の名をもとにした
名乗りの後半部分を姓と定めたというものです。
先にご紹介した姓の例は、この父親たちの名が英語化したことで登場しました。
併合によってイングランドと密接な関係にあったウェールズの支配者階級では
英語を話す必要性があったため、まずこの階層から名前の英語化がはじまります。
そして徐々に、あるときは自発的に、またあるときは強制的に、
一般大衆へと広まっていったのでした。
伝統的な“カドワラデル”より、“ジョン”のほうが
カッコよく感じられた若者もいたんでしょうね(?)
“~の息子”を意味する<ap><ab>も英語のsonからきたSに取って代わられ、
語順も英語式に名前の後になったというわけです。
ただ、<ap>か<ab>を前につける習慣も、A音が脱落して残りました。
アプ・ハリーはパリー(Parry)に、アプ・リチャードはプリチャード(Prichard)に、
アブ・オーエンはボーエン(Bowen)に、といった具合です。
またロイド(Lloyd)やモーガン(Morgan)など
ケルト系の名がそのまま残っている姓も、あります。
ところで、なぜかはわかりませんが、ウェールズには恐ろしく姓の数が少ないのです。
40年ほど前の調査ではありますが、たった39の姓でウェールズ人の95%をカバーしているとか。
日本でいうなら、田中さんや山田さんや井上さんや鈴木さんだらけ、ということ。
そこで混乱を避けるために、ウェールズではユニークな方法が編み出されました。
でもこの話は、またの機会にさせていただきます。
<もっとトリヴィア>
ウェールズでいちばん多い名前は、
ジョーンズ(Jones)さん。
2006年にカーディフベイのミレニアム・センターで
行われた「ジョーンズさん大集合!」のイベントでは、
一箇所に集まった同姓の人の数で、
ギネス世界記録を打ち立てました。
会場はこのように特別仕様となり、
司会も出演者もスタッフも、すべてジョーンズさん。
このイベントにはキャサリン・ゼタ=ジョーンズや
トム・ジョーンズからも
メッセージが寄せられたんですって(笑)